本日、横浜地裁で判決!貸し会議室業界で起きた非正規労働者の不当解雇と雇い止め問題
貸し会議室「ビジョンセンター」で起きた非正規組合員(原告)の不当解雇と雇い止め問題。ビジョンセンターを運営するのはサンフロンティアスペースマネジメント株式会社(被告会社・以下スペマネ)であり、東証プライム市場上場であるサンフロンティア不動産が株式を100%所有する完全子会社だ。
被告会社で原告組合員が不当な解雇をされ、その解雇は撤回されたものの今度は雇い止めの問題をめぐって横浜地裁で争っている。解雇権濫用法理からすれば、原告側に有利な裁判闘争だが、その経緯と、非正規労働者の環境を巡った重要な闘いであることを伝えたい。
経緯については以前の記事を参照→【貸し会議室 ビジョンセンター】で起きた不当解雇。上場企業でおきた非正規差別、違法行為とは?
【転籍をめぐった問題】
2月6日に最終期日が設けられ、その期日は就業規則を提出する為に設定された。
原告組合員はこれまで就業規則の存在を1度も聞いたことが無く、周知されていなかった。これは労働基準法で定める法令等の周知義務違反に該当し、労基法106違反だ。
今回被告が書証(乙号証)で出してきた就業規則は全部で4種類。
・乙16号証・・・就業規則(ホテマネ) 2015年12月1日 施行
・乙17号証・・・就業規則(ホテマネ) 2020年3月1日 改定
・乙18号証・・・就業規則(スペマネ) 2020年3月11日 施行
・乙19号証・・・就業規則(スペマネ) 2020年8月1日 改定
原告は2018年1月にサンフロンティア「ホテル」マネジメント株式会社(サンフロンティア不動産の完全子会社・以下ホテマネ)に入社し、2019年5月に被告会社に転籍するという形をとられていた。上記を見ると、2019年5月の転籍時から2020年3月まで、被告会社に就業規則が存在しなかったことが分かる。しかも、転籍前であったホテマネとの就業規則さえ周知されておらず、原告は就業規則の存在すら知らなかったのだ。
そして問題となるのは、周知されていない就業規則に記載された「転籍」だ。転籍を行うと、転籍前の会社との雇用関係は解消され、転籍先の会社と新たに雇用契約書を結ぶことになるので、仮に就業規則に記載されていたとしても、原則的には労使間での合意が必要となる。そもそも周知されていない就業規則など効力が発生しないが、ホテマネと原告との間では転籍に関する合意書は作られていないし、業務内容も一切変わらなかった。つまりホテマネと被告は、輪をかけて違法行為を行っていたことが明らかとなった。
通常、転籍すると従前の勤務先の契約更新回数(勤務年数)は無かったことにされ、カウントされない。被告側は、原告の更新回数は転籍後の1回だけであり、転籍が有効だと主張している。
【法的手段を取った経緯】
不当解雇後、解雇理由が事実に反していることを音道氏、総務、上司に複数回に渡りメールと電話で連絡をした。返信が無ければ法的手段を取ると伝えていたにも関わらず無視をされ続けたので、法的手段を取ったのである。
ビジョンセンター横浜が選ばれる5つの特長
特長4
土日祝日や早朝深夜でも、室料の割増なし
ビジョンセンター横浜店HPから抜粋
【利用者から割増し料金を一切頂かないカラクリとは?】
被告が運営するビジョンセンターでは、早朝・深夜の割増し料金を利用者から頂かないことがウリで他社との差別化を図っている。利用者にとってはとても嬉しいサービスではあるが、一方でビジョンセンターで勤める従業員は利用者の都合に合わせてシフト変更や勤務時間のスライドをするしかなく、時間外勤務が計上されない仕組みにより従業員が犠牲になっている。利用者から適正な割増し料金を頂いていたり、一定時間以外の利用を制限している貸し会議室は、従業員への給与を正しく支払っていることが考えられるが、ビジョンセンターでは上記のようなカラクリがあり、時間外手当を支払わなくていいような都合のいい運用をしていたのだ。
そして、原告が同意の無いスライドに応じるしか無かったと主張した2020年8月と9月に決定したシフトと、直前に真の同意なくスライドしたシフトの時間差(時間外手当)である8,125円を労働審判にて被告側へ請求したところ、支払われた。つまりこの時点で、労基法37条に定める時間外手当の要件を満たしていなかったことが司法の場で明らかになったということである。しかし、横浜店のHPには以前として「早朝深夜でも割増し料金無し」とされているため、未払賃金を認めたにもかかわらず、現在でも負担を労働者に強いているのが分かる。時間外手当はきちんと支払われているのだろうか?
【ハラスメント相談窓口の総務担当者が自らパワハラ】
2020年8月26日の訪問と発言内容。栢原氏は「言葉を受け取った側がパワハラだと感じた場合はパワハラに該当する」と原告に伝えながら、自らが発した言葉はパワハラだと認めなかった。
パワハラ防止法は罰則の無く、抑止力になりづらい。相談窓口を設置している企業の相談件数の5割は事実関係のヒアリングさえされずに放置されているとも言われている。労評に相談しようと考えたのは、労働問題を抱える組合員1人1人の実態と気持ちに寄り添い真摯に向き合い、絶対に諦めない組合の方針があるからだ。
【労働審判での音道氏の問題発言】
裁判に先駆けた労働審判第1回期日(2021年4月)で、労働者側審判員が「職場に戻してあげることは出来ませんか?」と音道氏に尋ねたところ、「また訴えられる可能性がある為、復職させる訳にはいきません」と発言した。
訴えられる様なことが社内に存在していることを自白していた。シフトスライドの違法性を指摘されることを恐れた可能性があるのではないだろうか。
【3回目の団交(2022年10月8日)の内容】
◆会社側が出してきた和解案
・原告さんがよく働いてきていただいたことに対して感謝の意を述べる。
・今後のコンプライアンスに努めて、ご指摘いただいた事を受け止め、改善に向けて努力をする。
この和解案から分かるのは、原告が被告会社から評価されており、解雇や雇い止めにする根拠は何ら見当たらない。「よく働いてきた」と評価するならば、継続して雇用し会社に貢献してもらうほうが得策だったと言うほかない。
また、コンプライアンスについては「改善に向けて努力する」としているところからも、問題があったことを自認しているため、被告は雇い止め前提で和解金を提示するよりも、復職の条件を整えて原告を迎え入れるべきであった。
また、和解時の団体交渉にて、音道氏は「先に(解雇する前に)弁護士に相談しておけば良かったなって、後悔。」「解雇したことを失敗したと思っている。」と述べている。
【証人尋問時(2022年10月21日)の音道氏の発言】
被告側の反対尋問で、原告代理人が音道氏に尋問した内容で虚偽の回答があった。2020年10月、職場において音道氏との面談があり、何の用事も無く訪問をしてきた当時のことを質問し、「その時の原告さんの様子はどうでしたか?」と聞いたところ、音道氏は「全く会話がかみ合わず、表情も含め、目もいっちゃってる感じでした」と話した。後日、総務から「音道さんはいつもの原告さんに見えたそうですよ」と言われている。証人尋問での虚偽証言は偽証罪に問われる可能性がある。音道氏はこの様に平然とその場凌ぎの嘘をついたのである。
・上司に雇用契約書の労働時間以外も勤務していることを訴えたが放置されてきたこと。
・契約書の話を無視され、1度も何の回答も得られないまま放置されてきたこと。
この様に、上司として部下の意見は無視する姿勢、更に音道氏は自分に都合の良い様に(自分に歯向かわない、意見しない)部下を使い、原告を陥れてきたのである。上にゴマを擦り、部下にパワハラをすると安泰でいられる会社なのだ。
このような会社の大元が東証プライム市場に上場する企業であるから驚きだ。子会社がこのような違法、脱法行為を行う背景には、大元であるサンフロンティア不動産に問題があると疑わざるを得ない。サンフロンティアのHPには「人様の利益を優先して考え、世の中に役立つことを積み重ねていくことが大切」という創業者の思いが掲載されているが、実態は労働者の利益を無視し、労働力商品としてしか扱わず、都合が悪くなれば排除するのだ。このようなパワハラ体質が残る企業では上場企業として今後生き残れないだろう。
【まとめ】
この事件は、サンフロンティア資本が雇用契約書の未交付問題、シフトスライドの違法性を原告に指摘されたことに対する報復の不当解雇と雇止めである。事実確認さえせずに水面下で解雇の計画を企て、まるで犯罪者の様な嘘の理由(脅迫等)で解雇を強行し、違法だと判明するやいなや同意も取らずに(本来は必要)解雇を撤回し幕引きを図ろうとした。
更に解雇を撤回した上で再度嘘の理由で雇い止めを強行した。意味合い的には2度の不当解雇である。これらの事実により、原告は労働者としての尊厳を踏みにじられ、地位を不安定にされ続けてきたことによる強い精神的苦痛を被っている。
また、就業規則を周知していないことや、転籍の手続きの不備が発覚し、原告はさらに怒りを覚えた。当時就業規則がいつでも閲覧できる場所に保管されていたならば、アルバイトにも休職制度があることを知ることができていたし、労働者の権利はずっと蔑ろにされていたことははっきりとした事実である。
勿論、雇止め理由も事実に反している。会社側弁護士は誤ったアドバイスをし、オウンゴールを誘発したといえる。
いかに姑息な手を使っても、めげずに声を上げ労働者の道理をもって闘えば、必ず会社の矛盾を突くことができる。解雇権濫用法理からいえば、充分に勝算のある裁判闘争である。しかし、ブルジョア法のもとでの裁判であるがゆえ、不当判決が出ることも考えらえる。
労評は、裁判闘争を「負けても良し、勝てばなお良し」のテーゼで断固として闘い、一労働者の解雇と捉えず、非正規労働者全体における普遍的な取組みとして闘います!