【筑波大分会】 大学教員の「定額働かせ放題」問題 第1回
今、筑波大分会では、大学教員に対する「定額働かせ放題」問題を可視化するため、裁量労働制の適用拒否闘争を行っています。そのなかで、今年5月31日及び7月29日に行われた筑波大分会の団体交渉では、労働時間の調整が主要な議題として扱われました。
今回、この団交の報告をしますが、その前提として、
① 大学教員に対する「定額働かせ放題」とはいったいどういう問題なのか
② 労評筑波大分会が裁量労働制拒否闘争を行うに至った背景にある、国家的な大学政策に関わる重大な矛盾
これらについて、3回の連載(週1回更新)で、順を追って説明していきます。
まず第一回は、大学教員の「定額働かせ放題」問題とは何か、そしてこれに対抗し問題を可視化する裁量労働制拒否闘争について説明します。
1 教職員の長時間過重労働の常態化と裁量労働制
2020年に行われた学長選考の争点の一つが、教職員の「膨大な業務による疲弊感」だったことに表れているように、筑波大学では、教職員の長時間過重労働が常態化しています。
こうなるに至ったのは、さまざまな歴史的・構造的な要因がありますが、教員の労働の長時間化については、制度的なゆがみが背景になっています。2004年の「大学における教授研究」職への裁量労働制(労働基準法38条の3)の適用です。
2年半まえの記事でこのように書きました。
「研究や教育がやりたくて大学教員になったのに、実際は学内事務、会議、科研費の申請書などの書類作成に追われて研究・教育ができない―――そんな悩み、疑問、モヤモヤを抱えつつ、大学教員というのはこういう仕事だから、制度がこうなっているのだから仕方がない、と飲み込んでいる大学教員の方は多いのではないでしょうか。
大学教員という仕事がこのような不条理さを伴うものになったのは、明らかに歴史的・構造的な要因があります。そして、その過程で決定的な役割を果たしているのが、 2004年から「大学における教授研究」職にも適用されるようになった裁量労働制です。この制度の適用がはじまって以来、大学は大学教員を残業代支払い義務という歯止めなしで働かせ放題にすることが可能になりました。非常に問題の多い制度です。」(’22年3月12日記事)
裁量労働制というのは、一言で言うと、仕事のやり方に裁量の多い労働者について、労働時間の管理を自ら行わせ(つまり丸投げして)、使用者側は労働時間管理の責任を免れ、労働者が実際に何時間働こうと一切の残業代の支払いもしないで済むという制度です。
このように、裁量労働制があることにより、教員の長時間過重労働は不可視化される構造になっています。
初等・中等教育における公立学校教員の「定額働かせ放題」が最近話題になっていますが、裁量労働制は、いわば大学における「定額働かせ放題」問題を作り出していると言えるでしょう。
2 裁量労働制の制度改革
2023年、裁量労働制の運用についての見直しがなされ、今年4月1日から、裁量労働制の適用のためには労働者本人による同意が必須となり、また、いつでも同意を撤回し、適用を拒否することができるようになりました(※1)。
かねてから裁量労働制を問題視していた労評筑波大分会は、ここで、教員の労働時間を可視化するために、裁量労働制の適用を拒否、つまり「定額働かせ放題」を拒否する闘いに踏み切りました(※2)。これを受けた大学は、筑波大分会の組合員である竹谷悦子教授、吉原ゆかり教授に対し、変形労働時間制のもとで就労するよう、命令しました(※3)。
変形労働時間制の説明は注に譲りますが、重要な点は裁量労働制ではなくなったということで、これにより大学は、教員に残業をさせた場合には、残業代の支払いを免れることができなくなりました。言い換えると、このことによって、裁量労働制によって不可視化されていた長時間過重労働が、可視化されることになります。
続きは来週、更新します。
※1 より正確に言うと、すでに企画業務型裁量労働制では義務づけられていた本人の同意と、不同意の場合の不利益取扱いの禁止が、専門業務型裁量労働制についても導入されることになりました。それと同時に、同意の撤回がいつでもできるという制度が新しく創設される等の制度改革がなされました。(「事業主の皆さまへ(裁量労働制の省令・告示の改正・2024年4月1日施行) 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」(厚労省ウェブサイト))
※2 前に報告したように、「大学教員が定年前2年間の給与がそれまでより3割減額とされることについて、合理性のない労働条件の不利益変更であるとして、従前と変わらない水準で給与を支払うこと」を求めて団体交渉申入れをしていました。これに関連して、この4月1日から分会員の竹谷教授が定年前2年間の期間に入り、それに伴い労働時間が1日6時間となる(筑波大学の就業規則等による。詳しくは当時の団体交渉申入書をご覧ください。)にもかかわらず、裁量労働制があるために労働時間の短縮が無意味化するという問題があり、これに対抗するため、ちょうど同じタイミングで施行される裁量労働制の適用拒否を戦術として採用した、という経緯があります。
※3 変形労働時間制について、厚労省のウェブサイトは、「変形労働時間制とは、繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑や特殊性に応じて、労使が工夫しながら労働時間の配分等を行い、これによって全体としての労働時間の短縮を図ろうとするものです」と説明しています。このように公には、変形労働時間制の制度趣旨としては「労働時間の短縮」が謳われています。
しかし、この制度の真のニーズは、使用者の「もっとフレキシブルにリーズナブルに労働力を利用したい」というところにあり、実際、これによって、特に繁閑差の大きい業種の使用者は、支払う残業代の額を減らすことができるようになりました。多くの企業でこの制度が導入されているのはそれゆえであると言えるでしょう。